低く響く歌声が、聞こえる。

「……もうとく?」
「目が覚めたか」
 腕の中で眠っていた夏侯惇が目を開けると、優しい笑みを浮かべる曹操。
 お互いに休日である今日、久々に二人っきりで穏やかな時間を過ごしていたのだが、曹操が座って夏侯惇を背後から抱きしめていると、日頃溜めてた疲れのせいか、それとも背中に感じる心地好い温もりのせいか、いつの間にか夏侯惇は眠りについてしまったのである。
「すまん……眠ってたみたいだな」
「構わん。疲れているのだろう、まだ寝ててもいいぞ」
「いや、もう大丈夫だ。それに……俺が寝てたら、何も出来なくてつまらないだろう」
 そんな事を言ってくれる夏侯惇が愛おしく感じ、曹操は腕に力を込めた。

「孟徳。気のせいかもしれないが……詩歌でも歌っていたか?」
「ああ、急に詩興が湧いてな。それで起こしてしまったか」
「いや……。それにしても、すごいなお前は。簡単にそんなものを作ってしまって。俺には到底出来ない事だ」
 尊敬の眼差しを曹操に向ける夏侯惇。それを見た曹操は、少し妖しげな笑みを浮かべ、口を夏侯惇の耳元に近づけた。
「……お主が作った詩歌を聞いてみたいな」
「な……!」
 無茶な要求、そして耳元で言われた事、その二つに驚いた夏侯惇は肩を震わせ曹操の方へ思わず振り返る。
「お、俺にそんな才が無い事を知ってるくせに……!」
「何でもいいから。ほれ」
 ほれ、と言われて簡単に思いつくなら、苦労はしない。
 うーうー唸りながら、どうしようか考えている様子を見て楽しんでいる曹操。全く、意地が悪い。
 時間が経つにつれ、夏侯惇はどんどん追い詰められていく。ふ、と気がついたら何だか夏侯惇の肩が小刻みに震えているような気がした。
 
「はは、無理するでない。すまんな無茶を言って」
 大の男が泣き出しそうな雰囲気がしたので、曹操はすかさず謝罪をする。謝罪を聞いて振り返った夏侯惇の右目は、少しだけ潤いがあった。
「……もう二度と言うな」
「わかったわかった。……じゃあ、代わりに儂が作った詩歌を歌ってくれ」
「……うまく歌えるかわからんぞ」
「一から教えてやるから安心せい」

 こうして、曹操による詩歌の講座が始まった。

 少しして、教えた通りに歌う夏侯惇の声を聞き、曹操は満足げな笑みを浮かべた。

「これからは寝物語に歌って欲しいのぅ」
「…………馬鹿」





ツイッターの「三国志お題bot」からお題をいただきました。

[2011年 10月 9日]