※3章 潼関の戦いネタバレあり








 遠呂智により歪められた異世界。
 遠呂智が滅んだ後に突如現れた八頭の妖蛇を前に人々は結束し、妖蛇を討ち果たすべく戦いを続けていた。


 討伐軍・陣中。
 張遼の表情はどこか暗かった。妖蛇を前に絶望している訳では無い。むしろ、討伐軍は妖蛇に対抗する術を見つけ、希望を見いだしているのだ。
 それなのに、張遼の表情は暗い。
 というのも。

「──張遼」
 誰かに呼びかけられた。畏怖を与える低い声。誰かはすぐにわかった。
「……いかがしましたか、呂布殿」
 張遼はその低い声の持ち主──呂布に顔を向けると、拱手をする。
「こんな所で何をしている」
「いえ……少々、考え事を」
「ふん、そうか」
 会話がそこで止まってしまう。沈黙が苦しくなった張遼は、ある事を聞いてみる事にした。
「……貂蝉殿からお聞きしたのですが」

「貂蝉から? 何だ」
 愛妾の名前を聞いた呂布の耳がぴくりと動く。

「呂布殿があのナタに戦いを挑むきっかけとなったのは――貂蝉殿を守る為だそうですな」

 あれは妖蛇出現前に戻った過去で挑んだ、潼関での戦いの事。戦場に迷い込んだ呂布と貂蝉は戦場を抜けようとした所――仙界の住人であるナタに突如襲われたのである。
 三國の世界では鬼神と恐れられていた呂布でさえも敵わない武を持ったナタ。彼は軽く呂布を退けると、貂蝉に襲いかかり、そして。
 ――ナタの手により、貂蝉は命を落としてしまう。
 その光景を目の当たりにした呂布はもちろん激昂。以降、ナタを戦場で見かけては彼に戦いを挑むようになったのである。
 変える前の過去では、そうであった。
 過去が改変された今では、貂蝉は討伐軍によって救出され、呂布もまた貂蝉の説得によって討伐軍へと加わる事となったのだった。

「……確かに、ナタは貂蝉を傷つけようとした。それだけでも万死に値する」
 呂布は不機嫌そうに、ふん、と鼻を鳴らすと言葉を続ける。
「まぁ、それがきっかけなのかどうかはわからんが、とにかく奴が気に食わない。それだけだ」
「……そうですか」
 張遼の表情は。暗いままだ。

「張遼」
 呂布は張遼の表情に気付いているのかはわからないが、名前を呼んできた。
「どちらが先にナタに勝つか……勝負してみるか?」
 途端に不敵な笑みを浮かべる呂布。勝負と言っておきながら、どうやら負ける気はないようだ。
「呂布殿、御冗談を……」
 一方の張遼は、静かに首を横に振る。
「私の武は呂布殿より遥かに劣っております。なのに、あのナタと勝負するなど……私に勝ち目はありませぬ」
 至高の武を目指す張遼でも、今ではナタどころか呂布にも敵わない。それは少なからず実感しているようだ。
「ふん、つまらんな……」
 断られた事で興が冷めたのか、呂布は張遼の側を離れていった。
 こっそり、気付かれぬよう溜め息を吐く張遼。そして再び始まる思案。

 ――もし、貂蝉殿では無く、

「なら、」
 突然声をかけられた事で思案が中断した。立ち去ったと思われていた呂布が足を止め振り返り、また張遼に話しかけたのである。
「俺がナタを倒す所を、側で見ていろ。最強の武というものを、その眼に見せてやる」
 それを聞いた張遼が、少しの間から頷いてみせると、呂布は満足げに笑みを浮かべ、今度こそ立ち去った。


 思案に戻る。

 ――私が、ナタによって命を落としていたら
 ――呂布殿は同じように

「……怒りを覚えて頂けただろうか……」

 こんな事は、口が裂けても言えないが。




完




呂布がナタと戦うきっかけとなったのが意外に深かったので。あとは陣内会話万歳記念←

[2012年 2月 1日]