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 ここのところ、胸がまるで霧にかかっているかのようにもやもやとしている。
 何故か、それは自分でもさっぱりわからず、あちこちへと尋ねてみたが、理想の答を得る事は出来なかった。
 そのうち時間が解決してくれるだろう――夏侯惇はそう思うしかないのだ。

 ――そういえば……あれからもう、どのくらい経ったのだろうか。



 鍛練を終えた夏侯惇は一人、城の廊下を歩いた。
 胸のもやもやは相変わらず晴れない。体調が優れないのかと思い、今日はもう休もうかと思った時だ。

 途端に響き渡る、二胡の音色。

 どこからだろうか。気になり、音を辿る事にした。



「これは、夏侯惇様。ご迷惑でしたか?」
 中庭を眺めながら二胡を弾いていたのは、才女・蔡文姫。
「いや、大丈夫だ。続けてくれ」
 では、と蔡文姫は頭を下げると演奏を再開した。
 彼女が此処にやってきたのは最近の事である。
 彼女は、この戦乱の混乱に乗じて侵入してきた匈奴によって連れ去られてしまったのだ。そして、それから匈奴の長の妃として、時を過ごす事になったのだった。
 そんな悲運な才女を哀れみ、金品を使って蔡文姫を連れ戻したのは――覇道を進む者。

 また演奏が止まった。
 それにより、夏侯惇は物思いより現在へと戻ってきた。
「……まだ子供でしょうか」
 何の事だ。
 蔡文姫に尋ねようとしたがその前に、中庭を見るとすぐに答がわかった。
 兎だ。
 一体何処から入り込んだのか。いつの間にかその小さな姿を現し、ひょこひょこと跳び回っている。
「夏侯惇様、ご存知ですか?」
 蔡文姫が兎を慈しむかのように眺めながら、尋ねてきた。

「兎は、寂しいと死んでしまうという話しがあるのですよ」

 ――あの兎は、一人で寂しいから、此処にやって来たのかもしれませんね。

 蔡文姫の言葉を聞いて、少し考えこんだ夏侯惇。そして、
「……そう、か」
 彼女に聞こえないようにぽつりと呟くと、中庭へと足を踏み入れた。
「……あっ」
 夏侯惇の行動を不思議に思って暫く見守っていた蔡文姫は、今起こった出来事に、思わず口を手で押さえてしまう。
「すまない、何か入れる物を用意してくれないか」
 小さな兎はまだ何が起こったのか理解しきれていないのか、自分より遥かに大きい人間の手の中で、大人しくしていた。



「……寂しいのか」
 己に宛がわれた部屋にて、夏侯惇は先程捕まえた兎が入った籠を机の上に置き、側に座りこんで、ぼうと兎を眺めていた。
 兎は鼻をひくひくさせながら、躯を忙しなく動かして落ち着かない。
「……寂しいと……死ぬ」
 兎に語りかけるが、当然返してくれる筈も無く。
「……俺も、そうなのだろうか。だから……」
 ――こんなにも胸が、苦しい。


「ほぅ。鬼の猛将が子兎を愛でるとは」
 は、と聞こえた低くて威厳のある声。
「それとも、育てて太らせてから喰うのか?」
 無意識、だった。
 無意識の内に夏侯惇は立ち上がり、その声の主を腕の中に閉じ込めていた。
「珍しいな、お主が積極的になるなんて。儂が遠征に行っている間、寂しかったか、ん?」
 そう問いかけるが、夏侯惇は聞いていないのかただ抱きしめ、身を擦り寄せてくる。
「……見られているぞ。普段は人の目を気にするというのに」
 人、ではなく動物ではあるが。
「やれやれ……」
 声の主は夏侯惇から離れると、子兎を見て笑みを浮かべた。

「お主より、この大きい兎の方が、よっぽど寂しがり屋だな」





乙女惇! そしてまだ性格などが掴めないまま(何)、ぶんきっき登場。
……実は元旦にUPしたかったものですすみませ……。

[2011年 1月 29日]