ひょっとした拍子だったのだ。

 そう、いわゆる「気がついたら」だ。

 過ぎてしまったことは、もう取り消せない。

 全てはこの長く続く雨からもたらされる、陰鬱な気分のせいにしてしまえばいいのだが――

 * * *

 今日も雨は続く。
「なんとかしろ」
「無茶を言わないでください、呂布殿。こればかりは、人の手ではどうしようも出来ませぬ」
 気分転換に、小うるさい軍師に難題をふっかけてみるが、当然の事ながら相手にしてくれない。期待はしていなかったが、やはりつまらないと感じてしまう。その軍師はというと不思議そうに首を傾げると、どこかへと去っていった。
 雨はなおも止む気配を見せず、ざあざあと降っている。


 暫く時間が経つが、全く、姿を見かけない。
 いや、向こうはこちらに気づいていて、うまく気配を隠して姿を見せないようにしているのかもしれない。
 ――言いたい事があれば、言えば良いものを。
 そう思う自分も、人の事は言えないが。

 この雨が、陰鬱な気持ちを洗い流してくれればいいのに。


 翌日。雨は少し弱まった。
 そのおかげかどうかはわからないが、偶然にも――会う事が出来た。
 しかし、向こうはこちらに気づいた途端、すぐにその場を立ち去ろうとしたのだ。特に声をかけることも無く。
 だが、そうはさせない。すかさず捕まえにかかる。意外にもすぐに追いつき、腕を掴んでも大した抵抗はされなかった。
「俺に失望したか、張遼」
 前説も無しに単刀直入に、聞いてみる。

「……失望は、していません」
 張遼が場所を変えたがったので、それに従い彼の自室へとやってきた。室内に入って暫くの無言の後、まず張遼が口を開いた。呂布の方を見ずに、俯いたままで。
「ただ、私はもう……呂布殿に信用されなくなってしまったのではないかと、思いました」
「何故だ」
 間髪入れずに問いただす。
「……何故、と言われても、答えられません。……直感でそう思っただけです」
「……」
 呂布は何も言わなかった。すると張遼が俯いていた顔を上げる。
「呂布殿、私は」
「痛むか?」
 言葉を遮ってまで、呂布が張遼の左頬に手を添えてきた。頬はこころなしか、少し赤く腫れている。
「……いえ」
「そうか」
「呂布殿、」
「いい、何も言うな」
 それからは二人共、口を開く事は無かった。

 雨はもうすぐ止みそうだ。





何だか変わった作品になったような。

[2011年 7月 13日]