休憩の為に執務室から抜け出し、適当にぶらついていた曹操。
「やっと咲いたな」
 中庭に植えていた椿が開花している。待っていただけにその喜びは大きい。
 待っていたのは、自分では無いが。
「教えに行くか」
 少し、足取りが軽くなった。







「操様、ちょうど良い所に」
 とある部屋に入ると、迎えたのは正室である卞怜季。侍女達も挨拶をしてきた。
「どうかしたのか、怜」
「こんな物が出てきたのですよ」
 そう言った彼女が抱えていたのは、小さめの琴。
 最初はわからなかったが、琴に描かれている模様を見て思い出す事が出来た。
「俺の琴、だな」
「ええ。これを見たら、最近貴方の琴を聞いていない事を思い出して」
「弾けるかな」
「大丈夫。すぐに思い出しますよ」
 曹操は卞怜季の隣に座ると、琴を受け取った。そして、爪弾きだす。


 ただの音だったものが、次第に形を持ちはじめる。ついには優美を備える曲へと変貌した。

 曹操が即興で紡いだ曲を、暫く聴き入る卞怜季。侍女達も同様である。
 ふ、と彼女がゆっくりと立ち上がった。
 どうしたのだろうか、侍女達が卞怜季の方へと集中させた時だった。
 ひらり
 彼女の着物が、生きているかのようになびきだした。曹操が奏でる曲に合わせて舞いだしたのだ。元々は芸妓である彼女は、曲に負けず劣らずの、優美な舞いを披露している。
 勿論これも即興、である。だが、曲や舞いは予め用意してあったと思えるような完成度の高さであった。

 通じ合っている二人だからこそ、為せるのであろうか。




 ほぼ同時に曲と舞いは終った。すっかり魅入ってしまった侍女達は、慌てて喝采を送る。
「そういえば」
 琴を弾きながら卞怜季の舞いを見ていた曹操が声をかける。
「俺もお前の舞いを見るのは久々だ。相変わらず、美しいな」
「貴方こそ、腕は落ちていないようで」
 くすくすと笑う卞怜季。それに釣られて曹操も笑みを浮かべる。

 きっかけが無ければ、こんな風に笑い合う事は無かった筈だ。

「椿に感謝しないとな」





卞夫人の名は怜季(れんき)と読みます。名前は決まっていないらしいので……ここではこれでいきます。(何)
とりあえず、この二人は仲良しこよし。

[2010年 11月 21日]