悔しいが、力はあいつの方が上だ。
 適いもしない。


「高見の見物とは、良いご身分だな」
「今日ノ戦ハ、ツマラン。オ前ダッテソウ思ウダロ?」
「俺はどんな戦でも手を抜いたりしない。一緒にするな」
 高順は同じ軍に所属している、緋色の仮面を付けた男──悪鬼と呼ばれる男と話をしていた。
 彼はその名に相応しい程の力を持つ故に、敵はおろか味方からも恐れられている。負傷した所なんて見た事も無い。
 高順にはそれが憎らしく思う半面、羨ましくもあった。


 敵陣の城を落とした。
 落とすのは高順の役目だ。これは誰にも譲りたくは無い、その思いは強い。
 譲るとすれば、高順が消えた時だけだ。
「物足リナイカ、陥陣営?」
 背後からあの男──悪鬼の声がした。振り返ると、他人の血で汚れた彼の姿が見える。
 他人の血、とわかったのは彼が血を流す程の怪我をするなど、有り得ないからだ。
「言った筈だ。俺はどんな戦でも手を抜かないと」
「ツマラナイ戦ハ、ツマラナイ。楽シイ戦ハ、楽シイ。俺ハソウ思ウ」
「戦に楽しみを求めるか。お前らしいな」
 思わず口角を上げてしまう。それに釣られてか、向こうも同じ動きをした、ように見えた。


 幕舎へと戻った途端、高順は悪鬼に背後から抱きしめられた。
 戦で発散出来なかった熱を、高順の躯を使って発散させる気なのだろう。忙しなく首筋に舌を這わせる。
「何ダ、オ前モヤル気ナノカ」
「……ふん」
 否定はしない。

 込み上げる快楽に、堪え切れずに女々しい吐息を上げてしまう。
「はぁ……あっ、もう……」
「嘘ダナ。マダ足リナイノダロウ?」
「……ふふ……そう、かもな」
「ホウ、素直ダナ」
 ――そうだ。
 この悪鬼には――華雄にはああ言ったが、俺にとってもあの戦は物足りなかった。戦で熱くなるのは、武人の性。
 こうして求められなかったら、もしかしたら……
「ん、あ……あぁ……!」
 華雄が更に躯を密着させてきたので快楽の度合いが増した。顔を歪めてしまう。向こうが満足げに笑ったのがすぐにわかった。
「オ前ハ弱イナ、快楽ニモ」
「言って、ろ……あぁっ」
 結合部分から響く卑猥な音が大きくなり、欲望を突き入れる速度が増す。絶頂はもうすぐそこだ。
「華、雄……っ!」
「……っ」
 二人ほぼ同時に欲を吐き出した。
 欲を吐き出したばかりだと言うのに、華雄がまた律動を始めようとしたので、抵抗の意をこめて高順は彼の背中に爪を立てた。
「イタイ」
「痛くないだろう馬鹿。もう休ませろ」
「ツマラナイ奴ダ」
 不満故か、それとも名残惜しさからか最後に軽く一突きすると、内から出て行く。案外すんなり言う事を聞いた。
 不貞寝と言わんばかりに勢い良く隣りに寝転んできた華雄を、高順は少しぼぅっとする目で見つめる。
 背を向けている為、どんな表情をしているかわからないが。
「背中」
「ン?」
「痛そうだ」
「ダカラ言ッタダロウガ」
 視線の先には先程付けた爪の痕。内出血からか赤がとても目立つ。彼の躯には、似合わない傷かもしれない。
「寝ル」
「そうか」
 先程まで抱き合っていたとは考えられない程に、短く冷たい会話である。

 暫くして、華雄が寝息を建て始めると、高順は閉じていた目を開けた。
 少し視線を動かすと見えるのは、華雄の背にある傷跡。
 それを見て、高順はこっそり笑った。

 どんな形であれ──傷を負わない悪鬼に、傷を付ける事が出来たのだから。



完


こうゆう味気ない関係も悪くない。

[2013年 4月 20日]